Chapter 35
シャルが運動着に着替え、戻ってきたので特訓を始めた。
今から基礎をやっても間に合わないし、技を教えても付け焼き刃が通じるほどトウコは甘くない。
だから俺は模擬戦のみをすることにした。
これはシャルに経験を積ませる目的とトウコの動き方やトウコがよくやる技を使い、シャルに慣れさせる目的がある。
俺達はこれを授業が終わった後に夜遅くまでひたすらやった。
父さんと母さんに何してんのって言われたが、とても大事なことがあると言い張った。
何故か父さんは1000円をくれたし、母さんが喜んでいた理由はよくわからない。
「勝てない……」
ひたすら模擬戦をしていると、シャルが膝に両手をつき、項垂れる。
「それはしゃーない。培ってきた日々が違う。自分もそう言ってただろ」
「そうね……これで勝てるようになるのは天才だけ。私は天才じゃない。むしろ、体術に関しては才能がないとはっきり言える」
それは俺も頷ける。
シャル、筋肉もないし、遅いし、鈍いもん。
「いいか? 相手を倒そうと思うな。一矢報いるつもりでやれ。絶対に自分から動くな」
「わかってる。下手くそが動いてもロクなことにならないし」
「まだやるか?」
「やる」
俺達はその後も特訓を続けていく。
そして、月曜から始まり、火曜、水曜、木曜となると、ついには決闘前日の金曜となった。
「シャル、もうやめた方が良いだろう。もう10時だ」
辺りは暗く、公園の街灯だけでやっている。
「10時……」
シャルが両手を膝につきながら公園の時計を見る。
「3時間の時差があるし、それを踏まえると、1時だぞ。少し休憩して帰ろう」
「それもそうね……」
俺達は芝生からベンチに移動すると、腰かけた。
「はい」
「どうも」
シャルがポーションをくれたので2人で飲む。
すると、疲れがすーっと抜けていった。
「ねえ、どう思う? トウコさんに勝てると思う?」
「わからん。俺はシャルとラ・フォルジュさんの魔法の腕を知らんからな」
「それもそうね……あの、ありがとう。付き合ってもらって」
シャルが礼を言ってくる。
「別にいい。俺はこんなものとは比べ物にならないくらいにシャルに感謝しているから」
「勉強?」
「それ。俺、めっちゃバカだもん。シャルがおらんかったらヤバい」
マジでヤバい。
腕とかの前にテストがヤバい。
「あ、あの、マチアスのことなんだけど……」
「何?」
「えーっと、どんな魔法使いか聞く?」
「いやいい。シャルは立場上、言いにくいだろ。それにフランクとセドリックから聞いた」
シャルがマチアスの情報を漏らすのは問題になるだろう。
俺がトウコよりシャルを取るのとは訳がちがう。
「ごめん……」
「別にいい。俺は負けても失うものもないしな。それに5日も経つとマチアスへの怒りも収まったわ」
というか、忘れてた。
それほどまでにシャルのことに集中していた。
「あ、あの、ありがとうね。ツカサだってマチアスへの対処とかあっただろうに私に付き合ってもらって」
「マチアスよりもシャルだわ。それに俺は対処なんかない。魔法も使えんし、やることは変わらん」
脳筋、ばんざーい。
「そう……」
「シャル、俺は何も言えんが、一回、ラ・フォルジュさんと話した方が良いと思うぞ」
「何て?」
「何でもいい。シャル達さ、お互いに何もしゃべってないだろ」
2人共、家のことを気にして猫を被っているというか、しゃべってすらいない。
「まあ……」
「隣の部屋なんだし、何でもいいからしゃべってみ? まあ、明日の結果次第だけど」
「そうね……」
「さて、帰るか……明日は敵同士っぽくなるけど、よろしく。内心ではシャルを応援しとくから」
トウコ?
あいつはどうでもいい。
「私も内心ではツカサを応援するわ」
シャルがはっきりと告げた。
「いいん? 立場は?」
「ここには私達以外は誰もいないわよ。というかね、私、あいつのことが本当に嫌いになった。無様に負けろって思ってる。あいつの月曜のセリフのせいで血統主義なのが嫌になるくらいだったわ」
シャルが笑いながら言う。
「大丈夫。多分、あそこにいた全員がそう思っている」
「でしょうね……ふふっ、おやすみ」
「ああ。また明日」
俺達はこの場で別れ、それぞれの自宅に戻っていった。
家に帰ると、遅めの夕食を食べ、風呂に入った。
そして、風呂から上がると、トウコの部屋に行く。
「トウコー」
声をかけながらトウコの部屋に入る。
すると、パジャマ姿のトウコがベッドに寝転びながらスマホを弄っていた。
「なーに? というか、毎晩、遅くまで何してんの? 明日の特訓?」
正解。
対マチアスじゃなくて、お前だがな。
「まあ、いいだろ。それよりも起きろ」
トウコのところに行くと、トウコを抱えてベッドから下ろす。
「え? 何? 明日のことがあるからもう寝るんだけど」
「まあまあ。兄妹の語らいをしようじゃないか」
「キモいことを言わないでよ」
俺も自分で言っててキモいと思った。
「まあまあ。トウコ、水風呂に入らんか?」
「なんで!? 風邪引くじゃん!」
引け。
高熱で倒れろ。
「ピザ食わん?」
「だからなんで!? こんな時間に食べたら胃がもたれるじゃん! 太るじゃん!」
もたれろ。
「トウコ、彼氏はできたか?」
「はい? いるわけないじゃん」
「そうか……」
話題……話題……
「お兄ちゃん、本当に何の用? 寝ようよ」
「まあまあ。明日のために特訓でもするか?」
ケガさせよ。
「いや、疲れるだけでしょ。前日にやっても無駄だし」
うーん、手ごわい。
「トウコ、町の外に行きたくないか?」
「行きたいね。でも、お父さんはいいって言うかもだけど、お母さんが絶対に反対するでしょ」
「ちょっと説得方法を考えようぜ」
「うーん、そう言ってもなー……お母さん、そもそも戦うのが嫌いじゃん。だから決闘のことも言ってないし」
母さんは解呪とかが得意な人で戦う人じゃない。
「そこをなんとかしないといけないな」
「そうだねー……」
俺達は話し合いをし、夜遅くまで会議していった。
トウコがアホで良かったと思う。
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